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免疫と鍼灸

近頃コロナウイルスの影響もあり、免疫の重要性が取りざたされることが多くなっていると思います。鍼灸は東洋医学に基づいた考えのもと発展してきたものですが、近年では西洋医学の考え方をもとにして様々な研究・取り組みがなされています。鍼灸は『免疫力があがる』、『疲れにくくなる』、『風邪をひきにくくなった』といった結果を生んでいます。しかしそれを科学的に立証、証明するというよりも先生方の実体験・経験則による側面が大きく、科学的な立証というのは現場ではなかなか出来ていないことが多いです。というのも、免疫が向上した、低下したという指標が他人に証明しづらいものであるからです。病院との関係が良好で血液検査などが出来れば血液中の免疫に関する数値の上下によって一般の方にもわかりやすく証明できると思いますが、なかなかそういう鍼灸院は少ないのではと思います。そこで鍼灸における免疫に対するメカニズムや考え方を私の考察も交えながらご紹介したいと思います。

 

・免疫とは

そもそも免疫とは生物の持つ防衛機構の一つで、異物が体内に侵入した際に破壊し、撃退するための機能です。多くの場合は身体の中にある白血球や抗体などの体内の防衛機能のことを指しますが、身体の表面で雑菌などを体内に入れないようにガードする皮膚などを免疫に含む場合もあります。一つの器官ではなく、呼吸器・循環器・消化器等様々な臓器・器官にまたがって構築される複雑なシステムです。

 

・西洋医学からみた免疫

西洋医学では外部の刺激から体内の機能を守るために、身体の恒常性(常に状態を一定に保とうとする性質)を維持しようとします。恒常性を守るための機能の一つとして免疫機能が組み込まれています。免疫は自分とそれ以外を分け、自分以外を攻撃・排除する仕組みです。白血球・抗体(たんぱく質)・サイトカイン(細胞間相互作用を司る因子の総称)などの因子が血中・リンパ液中を経由し全身をくまなく巡っています。

 

・東洋医学からみた免疫

上記に記載した免疫の話は全て西洋医学の考え方をお伝えしました。東洋医学では西洋医学とは全く異なる考え方をします。はっきり言って『免疫』という言葉は東洋医学には存在しません。それに近い部分を類推するしかありませんので、それをお伝えすることにします。

一般的な感覚では、『免疫=ケガや病気にならない仕組み』だと思いますので、東洋医学の観点からその仕組みを考えていきます。

東洋医学では気・血・津液という三つの構成成分によって人体を構成するという概念があります。これらは生命活動を維持するうえで基礎的な物質といわれ、これら三つが過不足なく全身を巡ることで活動をスムーズに行うことができると考えられています。

気とは身体を巡るエネルギーのようなもので、身体を暖める、エネルギーを様々なものに変化させて必要なものを作る、様々なものを循環させる、外部刺激から防衛するなど、多岐にわたって身体を支えます。

血とは「けつ」と読み、全身の各器官に栄養を与え、潤いを与えます。また、精神を落ち着かせる作用もあります。

津液とは「しんえき」と読み、体内の血以外の水分のことを指します。体調調節や関節を滑らかに動かす機能、骨や脳を潤す機能があります。

これら気・血・津液に過不足があった際、五臓六腑の機能が下がり、体内の抵抗力を作り出す生気の力が弱まり、ウイルスや細菌・寒さ・暑さ・ストレス・食事不摂生などの病気の原因に対抗できなくなり、病気が発生することになります。

例えば全身のエネルギーとなる気が不足した場合倦怠感や食欲不振などが発生し、血の巡りが衰え、風邪をひきやすくなります。血が増えすぎると血栓が血管をふさぎ、脳梗塞のような血管障害を起こしてしまったり、目の下にくまができやすくなったり、神経痛が起こることがあります。これらはあくまでも病気になる原因の一部ではありませんが、気・血・津液などのバランスを崩さないよう原因となるものを排除する、またはバランスを自分自身で整える力のことをを東洋医学的な免疫ととらえることができるかと思います。

 

・免疫力の低下

加齢・ストレス・病気・運動不足などにより免疫力が低下する、と言われますが具体的にはどういう事なのでしょう?

西洋医学では上記の通り免疫は血液中やリンパ液の中を巡り全身をパトロールして異物を排除し、病気になることを防ぎます。しかし何らかの理由で新しい免疫細胞が作りづらくなったり、体内の血管などが狭くなることで血流が滞ってしまうと全身に免疫が行き渡りづらくなってしまいます。このような状況を免疫力の低下といいます。免疫力が低下すると身体が外部からの異物侵入に対し迅速に対処できなくなるので細菌などが増加し、病気になりやすい環境になってしまいます。

東洋医学では身体の自己治癒力が病気の原因に負けた時、病気になると考えます。『未病』という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。未病とは、健康と病気の間の状態を指します。調子が悪いけれども西洋医学の検査では何の異常も診られなかったり、逆に高コレステロールや高血圧などの診断を受けているのに本人に自覚症状がない状態のことを表します。気・血・津液のバランスが整えることで自己治癒力が整いますが、これらのバランスが崩れ、エネルギーの流れが滞ることで自己治癒力が衰えます。刺激に対して身体が耐えられなくなった時、体調を崩します。体調を崩すところまでいかずとも、調子が上がらない・不眠・腰の重だるさ・肩こりなど身体が不調のサインを訴えているとき、未病と捉えます。病気と言えないまでも、病気になりやすい状態であることから、この状態は免疫力が低下している状態であると考えられます。

 

・鍼刺激による免疫系への影響

鍼刺激による免疫系への影響は複雑で、末梢にある神経・内分泌・消化器・循環器など様々な反応に加え、中枢が関係している相互補完による効果であると考えられています。血液中へのT細胞やNK細胞の移行促進が報告されており、自律神経の一部による直接的にリンパ球へ作用し、調整されていることが分かっています。まだまだこれからも科学的実験にて免疫に限らず鍼灸の効果が明らかになることが期待されています。

 

・考察

西洋医学と東洋医学では免疫に対する考え方がだいぶ異なるということがご理解いただけたでしょうか。私は巷で語られている『免疫力向上』という言葉はあくまで『現状の自分からの』免疫力向上であり、正しくは『免疫力の改善』ではないかと考えております。不定愁訴と呼ばれる症状があります。検査に異常はないのに肩こり、不眠などの自覚症状がある状態のことです。これはまさに上記『未病』の状態といえるのではないでしょか。もちろん全ての未病と不定愁訴が一致するとは思いませんし、まだ未解明の病気など我々が知らない異常があるということは承知しています。これらの不調を改善する時には皆さんどういった対策をするでしょうか。身体を暖めたり、ストレッチや運動を行って体力をつける、食生活を改善する、生活リズムを改善するなどの様々な方法を実践されると思います。それはつまり体内の血流や柔軟性の改善、必要な栄養素を取り入れるなど、免疫力を高めて現在の自分の状態をより健康な状態に改善しようとする行為と一致します。そして鍼灸にはそういった免疫力を改善させるために有効であることが研究で徐々に解明されつつあります。

 

参考文献)

社団法人東洋療法学校協会編.教科書執筆小委員会著.はりきゅう理論.医道の日本社

平馬直樹ほか.基本と仕組みがよくわかる東洋医学の教科書.ナツメ社

渡辺勝之ほか.鍼刺激が及ぼす生体免疫学的パラメーターの変化について.明治鍼灸医学

渡辺勝之ほか.鍼刺激がマウス末梢血リンパ球サブセットに及ぼす影響.明治鍼灸医学

黒野保三ほか.鍼刺激のヒト免疫系反応に与える影響(Ⅴ).全日本鍼灸学会雑誌

渡辺勝之ほか.鍼刺激がヒト末梢血NK活性及びNK細胞サブセットに及ぼす影響.明治鍼灸医学

久保千春.脳免疫連関の医学.医学の歩み.Vol197

 

 

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